野外フェスに見る「ものつくられ」の意識

「趣味は音楽鑑賞です。」


これほど情報量の無い自己紹介も無いだろう。
音楽はジャンルも千差万別、聞くスタイルも人によって異なる。


かく言う私も音楽鑑賞が趣味。
所謂ロキノン系の楽曲をメインに聴き、ライブハウスや野外フェスに参加して激しく飛び跳ねて聞くのが趣味。
賛否両論のあるダイブ&モッシュが趣味。


元々、私はダイブは否定派だった。
身長が高いので、ダイバーに後頭部を蹴られることもあったし、「邪魔だよちゃんと聞けよ」とか思っていた。


そのダイブへの見識が大きく変わった出来事がある。
2009年夏の、ROCK IN JAPANフェス。
Ken Yokoyamaのステージである。


私はその時、前方スタンディングエリアの柵に身を委ねていた。
「ダイブ禁止」というルールの中、演奏を始めるKenさん。
ルールを守って自分を抑圧しながら、それでも地上で体を動かす聴衆。
それを眺めるKenさん。
何曲目かの演奏前、Kenさんはこう言った。


「ロックなのにいい子に聴いてどうすんの?」


その瞬間、数え切れないダイバーが出現した。溜まっていたものを全て解放するかのように。
そして、心なしかKenさんの顔も楽しそうな表情になっていた。
この日以来、私はダイブ肯定派になった。


***


聴く側の私達が演者・ステージに求めるものがあるように、演者側にも求めるステージが、ステージに求めるものがある。
その時私が思い出したのは、高校3年生の秋の文化祭だった。
私はステージの企画運営を担当するグループに所属。受験生であることを忘れ準備に没頭した。私の仕事は基本的には裏方で、1日中音源の編集したり小道具作ったりしていた。
そんな私が唯一ステージに上がる機会が、最終日の最後のプログラムにあった。
そこから見た景色は、今でも忘れることは出来ない。
客席を埋め尽くした人々が、私達の動きによって反応する。
それがダイレクトに、視界の全てから伝わってくる。


ステージ上から眺める景色は格別なのだ。
ましてフェスの何万人と聴衆のいるステージでは比べものにならない快感を得られると思う。


しかしその聴衆が、足枷をつけられ不満そうに藻掻いていたらどう思うだろうか。


***


ものつくりにおいて、いやものつくりに関わらずとも多くの仕事で「顧客目線を忘れるな」という格言がある。今話題のドラッカーだって言ってる。
作り手側が受け手側の考え、求めるものを考えて商品やサービスを企画し提供する。マーケティングそのもので、ものつくりを仕事とする人が意識していることだ。
だが受け手側の私達が、作り手の考えや求めるものまで考えることは少ない。
消費活動においてそんなことまで考える必要がそもそも無いから。


でも「どういうことを考えてこれを作ったんだろう?」「作者は何がしたいんだろう?」と思いを巡らせることって、とても価値ある行為なんじゃないかと思う。
考えたことのない人にとって、新しい価値判断の基準にきっとなるはず。
今まで持っていなかった目線を持つことは、人生を少し豊かにする。


ただ、ここで生まれた判断基準は商品選びに活きるものではないと思っている。
これが真に活きるのは「自分がどういう作り手になりたいか」を考える時ではないだろうか。
「自分だったらこうしたい」
「自分だったら同じ方法でも別の目的を持ってやりたい」
普段から商品の作り手の意図を読み取り、作り手の判断基準を持っていれば考えやすいのではないかな。


この「ものつくられ」の意識を、受け手側の私達が持っていれば新しいものが見えてくるはず。
日々の生活の中で常に持つことをおすすめしたい。